我が拳客商売

拳の研究・指導を生業に据えての世渡りの中で起こる悲喜こもごもを、筆の赴くままに書き綴っております

でっかく生きろ 〜梶原一騎氏を偲ぶ

私の少年時代、武道や格闘技をやるもののほとんどが、劇画界の巨星・梶原一騎の作品の愛読者であった。

一騎先生の凄さはその妄想力だね。代表作のひとつである『空手バカ一代』なんか、こ〜んなナイスな始まり方するわけ。


事実を事実のまま完全に再現することはいかにおもしろおかしい架空の物語を生みだすよりもはるかに困難である──
アーネスト・ヘミングウェイ

これは事実談であり‥‥この男は実在する!!
この男の一代記を読者につたえたい一念やみがたいのでアメリカのノーベル賞作家ヘミングウェイのいう「困難」にあえて挑戦するしかない‥‥
わたしたちは真剣かつ冷静にこの男をみつめ‥‥そしてその価値を読者に問いたい‥‥!!


なに?事実を事実のまま完全に再現?この言葉をまじめに信じた俺、松山まで出掛けて、ケンカ十段こと故・芦原英幸先生に“山狩り”の話を尋ねてみたわけ。

そしたら、大笑いしながら甲高い声で「おまえ〜信じてたんか〜?あれは、梶原センセの“筆の冴え”だ〜」とおっしゃるじゃない。いや〜、よく考えたら空手の道場が勝手に“山狩り”なんかやるわけないよな〜。

ま〜、俺なんかかわいいほうで、山篭りしちゃった人とか随分居たんだよね。みんな、一騎センセにだまされてたんだよ。

でも、当時はみんなマジで信じて居たんだよな。でさ、凄いのは梶原作品を読んだ人って行動に移しちゃうことなんだよな。

空手バカ一代』やら『あしたのジョー』を読んでよく牛や豚に正拳入れに行ったな〜。結果?聞かんでくれ。・・・牛は強いよ、うん。でも、みんなもやったんじゃないか??


よく映画とか観て簡単に「感動した!」とか言うヤツ居るけれどバカ言うなっての。感動ってのはさ、感じて動くことだぜ。

感動したんだったら、その日から行動を変えてみろよ、コノヤロー(笑)。

ジャッキーの映画見て翌日に腕立てやっているやついたけれど、たいてい三日坊主だろ?梶原作品の影響力に比べれば、ね・・・。


なんでこんな影響力があったのかっていうとさ、主人公のやせ我慢ぶりが良いんだ。

梶原センセ御本人は、自らの煩悩に非常に忠実に屈していらっしゃったらしいが、それだけに矢吹丈あしたのジョー)や春山章(男の星座)みたいに女性にストイックなキャラ作りをなさっていたのかな?

もっとも『カラテ地獄変』シリーズみたいに果てしなく堕落を描く少年に読ませたくない作品もあるんだがな(それはここでは論じない)。


なんにせよ、梶原一騎には男の生き方・往き方を教わったなー。

夢・志、そしてそれを手に入れるためには困難をもろともせずにぶつかるのが男だと。

思い込んだら 試練の道を 行くが男の ど根性


この短い台詞に男道の全てが凝縮されているよな。

楽して成果を得たい、とか簡単に銭儲けしたい、とか考えているヤツ。鏡見てうつった自分のツラが醜いなあ、とおもったらまだ間に合うぞ。

カラオケ行って、空バカでも、巨人の星でも、ジョーでもなんでも良いから、思い切って梶原アニメのテーマソングを唸って来い!

そーすりゃ帰り道には、お前の顔が良くなっていることは請合うよ。変わらなかったら?俺んちに来い。俺が変えてやるから(笑)。

オレが独裁者か、せめて文部大臣になれば、歴史教育を一新、さらに修身を復活させて教科書に梶原作品を採用するんだがなぁ。

選挙に打って出る金も無い俺としては、そのうち太気拳を軌道に乗せて、柴又の本部みたいに空手少年部を作って“男”を育てたいね。

(つづく)