我が拳客商売

拳の研究・指導を生業に据えての世渡りの中で起こる悲喜こもごもを、筆の赴くままに書き綴っております

武の格言-2 自分の器

太気拳宗師・澤井先生の名言のひとつに「自分の器を作れ」があります。

『拳聖 澤井健一先生』に練(ねり)の稽古で自分の身体を練り上げて行く心構えについて澤井先生が説かれるくだりがあります。


「・・・もう一つ重要なことがある。それはどういう器を作るかということである。そのことが念頭にないと、ただの粘土いじりだけに終わってしまう。(中略)自分の器を作る気がないと、いくらこねてもいいものはできない」


武術でも何でも基本的な稽古をある程度積むと、土台が出来上がります。基本を大きくゆっくり丁寧に稽古することで、技の原理が身に付き、一定の攻防が可能になる。これは不可欠な過程なのですが、ここまではあくまで最大公約数の稽古です。

ここで終わってしまっていては、稽古して居る者同士で手を合わせた場合、所詮、素質や体の大小、年齢と言った壁を超えることは出来ない。

容易に真似の出来ない自分の器が出来て、初めて安心立命の境地に立てるのではないでしょうか?まぁ、私も安心立命の境地には程遠いのですが。

大相撲初場所の千秋楽で、舞の海さんが面白いお話をされていました。

曰く「若い力士と魁皇の差は、自分の型があるかないか。魁皇には左四つ・右上手の必勝の型がある。かつては力士の得意の型をお客さんが知っていて、得意の型になるだけでお客さんが沸いたものだが、いまはそんな力士は魁皇しかいない」

史上最多勝ち星を更新し続けるベテラン大関魁皇。私は魁皇関の全盛期を観ていましたが、得意の型になれば、名横綱貴乃花でさえ土俵を割ったものです。

国技大相撲は腕力だけで上位に君臨できるほど甘い世界ではありません。魁皇関は華麗では無いですが、確かに“自分の器”を作り上げた名力士だと、私は思います