我が拳客商売

拳の研究・指導を生業に据えての世渡りの中で起こる悲喜こもごもを、筆の赴くままに書き綴っております

見届けました

嶋田選手のリングイン


前夜、興奮してなかなか寝付けなかったのでやや遅めに起き、立禅を組んでから東京に出発です。佐藤聖二先生が共同経営される岩本町の四川料理のお店「巴蜀」にて昼食を摂り、台東区下谷法昌寺にて故・風間会長のお墓にお参りしてから、武道館へ向かいました。

そうです。言わずと知れたエドウィン・バレロ vs 嶋田雄大WBAスーパーフェザー級タイトルマッチを観戦するためです。

テーマ曲がかかり、リングへ向かうシーンから涙が溢れてきました。苦労に苦労を重ねて、ようやくここまで来られたんだな、と。

場内は大嶋田コール。興奮の坩堝です。

ゴングが鳴り、試合開始。予想通りガンガン仕掛けて来るバレロ。スロースターターの嶋田さんは、立ち上がりがやや固い感じ。プレッシャーに呑まれては駄目ですが、慌てて仕掛ければ相手の思うツボ。

3Rあたりからバレロのボディ打ちの引き際に、上手くパンチを返して行く嶋田選手ですが、どうしても単発になる。危険な距離になると身体を寄せてクリンチ。

反則にならない程度のクリンチ、そして巧みに身体を入れ替え、変則的なリズムで打ち込んで消耗させる作戦なのでしょう。勝負は後半にあり、というところか。

カウンターの右も入り、バレロが止まる場面も。しかし、お互い体力に余裕がある序盤戦での中間距離での打ち合いは、王者に分があり防戦にまわってしまう。思わず嶋田さんに「(主砲の)左を打たせるな!」と叫ぶ

怪物王者の殺人パンチをかいくぐり、距離を詰めてクリンチ、そして身体を入れ替えて手を出すというシーンが目立ちます。凄まじい神経戦。決してきれいではありませんが、喰らい付いてやる!という嶋田さんの決意がにじみ出ていました。

大きいのさえ貰わなければ、と思っていた矢先、カウンターを放り込まれ追い討ちの右。立ち上がったものの、レフェリーが両手を交錯させ、7R1分55秒、夢の舞台は終わりました。

結果は残念でしたが、私にとっては彼のボクシング人生の集大成を見届けることが出来て何よりでした。私は嶋田さんが「世界一の男に挑むリングに上がる」と決意して歩んだ二十代の一時期、おなじ空間で汗を流し言葉を交わせた事を誇りに思います。

世界、世界って簡単に言うけれど、多くのボクサーはリングで何度も拳を交えるうちに、自分の限界を悟って夢をあきらめ静かにグローブを置くんです。

我々はアグラかいてテレビを観ながら、強いの弱いの言っていればいいけれど、彼らは夢を持って行動を起こして、それでも殆どの人間は世界戦のリングへの憧憬を抱いたまま辞めてゆくんです。

20年前に立てた志に向き合い続け、記録狙いの意図的なマッチメークをせず、ハッタリもかまさず地道に戦い続けてきた嶋田雄大さん。男の中の男です。

世界王者には手が届かなかったけれど、あなたは「敗れざる者」です。あなたの生き様を心に刻んで勇気を持った者はたくさん居ます。私も勿論、その一人です。

あなたの生き様を見届けさせて頂きました。本当にありがとう。そして、お疲れ様でした。