我が拳客商売

拳の研究・指導を生業に据えての世渡りの中で起こる悲喜こもごもを、筆の赴くままに書き綴っております

絵にかいたモチ

ドンパチ


来客がありました。今月中旬にA国に赴任するSさんです。現地での業務と暮らしについて事前に情報収集したいという趣旨でした。旧知の間柄ですので、異論はありません。

Sさんにお話ししたのは、何しろ法治国家ではなく人治主義の国であることと、全てが杜撰で国民の勤労意欲が抜群に低い国であるということ。

他意はありません。1人ひとりは友人として付き合う分にはフレンドリーで大らかで良いのですが、仕事のパートナーとしてはチト大らか過ぎる人達なのです。

三か月しか滞在しなかった私と違って、Sさんは駐在者の身分で最低1年半は現地で業務に従事することになりますから、仕組みから改善して行くことを求められるでしょう。

しかしながら、私がお話ししたようなことを知らずに行けば、「人を見て法を説け」という諺を身を以て体験することになる。同席していたマネージャは抜本的な業務改善の案を出されていました。でもね、絵にかいたモチですわ。そんな国民に日本式の“カイゼン”など強制すれば、誰も不貞腐れて仕事などしません。

マネージャ氏は「仕事しない奴はクビにすれば良いじゃないか!」と息巻くのですが、そんなことをすれば同国では反発されるだけ。文化も言葉も全く異なる国で孤立すれば、どうなるか?気の利いた中学生ならば分かるコトなのですが・・・。

でもイスラム文化圏での駐在経験がある彼は、私に対し「三カ月程度の滞在経験をふりかざすな!」と言わんばかりの態度をお取りあそばす。若くして管理職におなりあそばした御仁は、これだから困るのです。

そもそもイスラム文化圏とは言っても、彼は先進国の現地法人のマネージャとして使用人付きの高級マンションに暮らし、運転手つきの車でゴルフ三昧の週末をお楽しみあそばしていた由。もちろん、普段から力作業や汚れ仕事とは無縁のお仕事ぶりです。

一方、私はマネージャ的な立場とは言え、インフラも整備されていない、在庫管理のシステムも仕組みも無い後進国の事業所で、作業着に着替えて現地人と倉庫を這いずり回って“宝探し”をしていたわけです。

一緒に汗流して力仕事もやり、現場の連中に「腕力でもお前らには負けねえぞ」と軽口を叩いて、汚ねぇ飯屋で彼らと同じものを食う。時には飯もおごる。だから私の依頼は何でも聞いてくれ、便宜も図ってくれた。

上述のマネージャ氏は有能な人物かも知れませんし、思いやりや柔軟な部分もお持ちなのですが、何かとアタマで解決しようとされるところがあります。娯楽としてのスポーツはお好きなようですが、生きるために身を粉にする、というのはお嫌いみたいです。

今は私もキーボード叩いて画面みて、時々電話をかけるという仕事に戻りましたが、身体も動かさずきれいな事務所で画面見て指先だけで仕事をして居ると、いつしか生き物としての正常な判断力を失うのではないでしょうか?

武術、なかんずく太気拳の稽古には、そんな身体感覚のズレを正常にしてくれる効果もあると思います。身体を練り相対稽古で真剣に対敵動作を行うことで、神経が鋭敏になる。

もっとも、武術をやっていても絵にかいた餅がお好きな方もおいでのようです。例えば、身体を掛けた稽古や組手での検証を嫌い、洗脳された弟子を相手にアタマで捻り出したテメエ勝手な技を披露するだけの方とかネ。

せいぜい、先生選びは慎重になさるのがよろしいかと存じます。


【今日の一枚】
珈琲の銘柄だそうです。