フルレンジ
昨日の夕食後、音楽館に出掛けて珈琲を愉しんだ。
店の名の通り、マスターは大の音楽好き。何しろ今まで自分のお店でサロンコンサートを数十回開催したくらいだから、半端ではない。
私は音楽に関する教養は全くと言って良いほど無いのだが、音楽の話は楽しく聞かせて頂く事にしている。勿論専門用語など出てくると全く分からないのだが、マスターの感性に触れるのが楽しくて聴いている。
評論家のような知識の話ではなく、どんな音色が心の琴線に響くのか、という感性の領域の話をされているので、知識の無さを差し引いてもお話が楽しめるってわけ。
たまたまこの日はオーディオの専門誌があったので、家内がそれとなく尋ねてみたところ、マスターの講座が始まった。
以前はオーディオセットを店においてレコードを聞かせていたそうで、30年以上前に3万5千円したとかいう真空管やらを拝見した。
マスターは素封家であると見えて、アンプから何から凝りに凝って最高のものをかき集めてはカスタマイズして、オーディオを組んだのだとか。で、これで理想の音が出せると意気込んで鳴らしてみたら、「大がっかり」となったそうな。
中域も低域も高域も最高の音を出せるように組上げたのに、何故がっかりしたのかというと「音像」がキチンと出なかった、ということらしい。
らしい、というのはこと音楽が話題であるだけに、私の理解にちょっと自信が無いからである。まぁ有体に言えば、160センチの人間の声が190センチの人間の声になってしまう、みたいな話である。これは嘘っぱちだ、ということに直感的に気づいたということのようだ。
オーディオに凝りに凝った挙句組上げた部分最高の寄せ集めではあったが、全体としての音色は理想にはほど遠かったそうだ。そんなわけで結局、低音から高音まで一つのユニットで再生するフルレンジのスピーカーユニットに帰着したという。
「オーディオに凝ると音楽を聴けなくなるんです。一つ一つの音にこだわり過ぎちゃうんですね」とも言われていました。
ん〜実際に高級車買える位の金額ぶち込んだオーディオを、ビシッと駄目出し出来るくらいの人の言うことですからね、これは重いですよ。
「珈琲もね、ブレンドから始まって色々なストレート珈琲を味わって、あれが良いこれが良いって彷徨うんです。でも最後はブレンドに行き着くんです。それと同じではないですかね」
武術でも出稽古ばかりやっている人が居ます。パンチはボクシング、蹴りはムエタイ、投げは柔道、寝技はグレイシーとかって感じで。
色々習うのは否定しません。私も太気拳をやる前は空手を中心に古武道・ボクシングなども稽古させて頂き、多くのことを学ばせて頂きました。
でも、武術でも全局面対応を考えるなら、異なる原理で動く部分最高志向の寄せ集めはほどほどにして、あらゆるエッセンスをシンプルな原理で統一したメソッドに移行する方が、より確実であると感じます。
太気拳を学び始めてから、今まで学んできたものが統一されつつある、ということを実感しています。普遍的な法則を学んでいるので、ボクシングを見ても空手を見ても、柔道を見ても、勝負のアヤのより本質部分が見えるようになってきた感じです。
勿論、柔道やボクシングの専門家にその分野で勝つというわけではないのですが、太気拳というフルレンジの武術を稽古するのは、なかなか面白いことだと思います。