我が拳客商売

拳の研究・指導を生業に据えての世渡りの中で起こる悲喜こもごもを、筆の赴くままに書き綴っております

『天上の青』を読んで。

『天上の青』(曽野綾子著 毎日新聞社刊)という小説を読みました。

この小説が 毎日新聞に連載されている時、
私は女子高生でした。
当時、次々と殺人を重ねて行く主人公の姿に 
頭の中が灰色になるような≪意識の混濁≫を感じました。
それだけ、ショックだったのです。

殺人被害者の中に 自分と同じ年頃の少女が含まれているのが
恐ろしかった。
そして、雪子という女性を 純粋で 有り得ないほど純心な
天上の人のように感じました。

今、自分がこの雪子さんと同年になって
もう一度読み返すと 彼女が 単純に浮世離れした天女ではないと
感じることができます。

純粋というよりは 頑迷なところのある 大らかさの足りない
しかし それだけに どこか 透徹した所のある人だと感じる。

殺人鬼、宇野富士男の最後の手紙
『愛していてくれるなら、控訴はしない。』
は、人間の心の不可思議をえぐりだす 叫びの場面だ。

殺人鬼、宇野の物語は全て この一行に集約される。

そしてまた
今の私は 女子高生であった頃とは 違う。
物語の中で 感じ入る場面が違うのだ。
宇野によって人生に 変換 をもたらされた女達の発言に
女の生き方。その知恵を教わるのだ。

瞳さんはこう言った
『嘘でいいのよ。私たちは嘘で救われるんじゃないの。
 一番辛い時にごまかしてもらえれば、私たち、
 そのうちに自力で立ち直りますもの

宇野による
レイプ被害に遭った女性の その後を指して
雪子はこう言う
『弱い人ですね。自分が原因でもないことの結果に対しましては
 全く昂然と顔をあげていらっしゃればいいのにと思います。
 そういう冷たさが人生にはいりますのに。』

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(次号へ続く)