我が拳客商売

拳の研究・指導を生業に据えての世渡りの中で起こる悲喜こもごもを、筆の赴くままに書き綴っております

気配を感じて攻撃をかわす?

昨日、テレビ番組で「達人なら背後からの気配を感じて攻撃をかわせるのか?」というテーマを扱っていた。

背後からの攻撃をかわせる、と謳う武道家三名が被験者となってこのテーマについて検証するという設定。

まずは三人の稽古風景を紹介し、道場においては彼らが気配を察して未然に防ぐ能力がある、というデモンストレーションを見せる。

~検証の方法~

被験者に商店街を歩いてもらう。その途中で10名の「刺客」がハリセンやピコピコハンマーで「達人」に背後から襲い掛かる。

被験者は、気配を感じたら後頭部周辺に手を挙げて攻撃を防ぐ。防御動作が許されるのは合計10回。つまり、当てずっぽうの防禦はできない。

~検証の結果~

三名が三名とも、事前のインタビューでは「絶対に防げます」と答えていたのだが、まるで反応できなかった。自信満々の「達人」がまるで素人のように打たれるのを見て、お茶の間は大いにわいたことだろう。

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さて、ご覧になった皆さんはどのように感じられただろうか?

番組の目的はまじめに武の可能性を検証することではなく、視聴率とることなのだが、武を説く素材としては斬り方次第でそれなりの価値が生まれる。

~検証方法の是非~

結論からいうと、この方法で武術家として求められる「危険察知能力」や「力量」を検証することはできない。誰がやってもまず打たれるだろう。

被験者の三名は異口同音に「絶対に避けます」「気配で分かります」という趣旨のコメントをしていたが、当該実験の状況で出来ると本気で思っているとすれば「武人に非ず」と断じて良い。

~検証方法の問題点~

武の達人が持つ察知能力や気配を読む能力の検証、という視点から考えれば、おかしな点がいくつも浮上する。

まず第一に、避けるべきリスクに自分から近づくという設定自体に無理がある。

工場や倉庫でもKYと称する危険予知訓練をおこなう。素人ですら危険が潜むポイントを避ける訓練を行う。況(いわん)や武人においてをや。

第二に、不自然な行為は感性をマヒさせるということ。

背後から襲われることが分かっていて、それでも前を向いて歩み、打たれる寸前ま防禦行動ができない、という不自然さ・不自由さに気づいた人はどれくらいいるだろうか?

不自然な状況設定は、緊張・居着き・囚われ...といった不自然な心身の状態を招く。すなわち、本来発揮されるべき感性や能力が発揮できなくなる。感性とは違和感を拾い上げる機能であるから、感性が働かない以上、「気配を感じて攻撃をかわせる」わけがない。

第三に、「刺客」の心身の状態について。

本気で危害を加えるとすれば、襲撃者側にとっても心身の負荷は過大なものとなる。害意や殺意をもってターゲットに近づけば、相手もそれを察知し、危険回避のための必至の行動に出る。回避行動には、殺意をも含めた強烈な意志力が伴う。すなわち、襲う者にとっても命がけの行為となる。ゆえに襲うためには「決意」をすることが必須となる。決「意」が大きいほど、「気配」として表れやすい。武人であれば、そのような違和感に気が付く公算は大きい。その意を消して対象者を襲うのは、高度な訓練を積んだ者にしか為しえないだろう。

すなわち番組でみるような、攻撃側が(反撃受ける)リスクも決意も計算にいれずにお気軽に対象者を襲う、という状況は実際にはほぼ起こりえない、ということ。

武や護身を語る以上、リスクのアセスメントや心身の負荷、そうした双方の内面の状態が生ぜしめる感応現象・・・といったことを勘案せずに、目に見える動作の是非を問うても、ほとんど意味はない。武術における「気」とは、表層部分の動作以前に生じる目に見えないが存在する諸々の関係性についての概念であると思う。

そしてそれを生み出すのは必然性だ。襲うなら襲う側の必然性がある。必然性に呼応して生じる「気」の問題を、必然性が存在しない状況下で検証する意味はない。

なお、三名の武道家が道場や教室で披露していた「気配」を読む稽古も、あながち嘘とも言い切れないものがある。ただし、先生と生徒の関係性の中で生じる「同調」「協調」にともなう気、いわゆるラポールである。武に付随する「周辺現象」ではあっても、武そのものではない。あの訓練からは、武の気は養成しようがないだろう。

武術のなかに活きる「気」は存在する。あのような稽古では養成できない、というだけの話しだ。

 

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